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東京地方裁判所 平成5年(ワ)4415号 判決 1996年8月30日

原告

株式会社X1

右代表者代表取締役

X2

原告

X2

右両名訴訟代理人弁護士

間中彦次

牧義行

阿部裕行

被告

株式会社国会タイムズ社

右代表者代表取締役

五十嵐武

被告

五十嵐武

外二名

右四名訴訟代理人弁護士

桒原康雄

佐々木黎二

田原大三郎

主文

一  被告株式会社国会タイムズ社及び被告五十武は、原告株式会社X1に対し、各自金一〇〇万円及びこれに対する平成五年二月五日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

二  被告株式会社国会タイムズ社及び被告五十武は、原告X2に対し、各自金八〇万円及びこれに対する平成五年二月五日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

三1  被告株式会社内外タイムス社は、原告株式会社X1に対し、金五万円を支払え。

2  被告株式会社内外タイムス社は、原告株式会社X1に対し、平成八年から平成一二年まで毎年一二月二一日、各金五万円を支払え。

四  被告遠矢健一は、原告株式会社X1に対し、金一〇〇万円及びこれに対する平成五年二月一〇日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

五1  被告株式会社内外タイムス社は、原告X2に対し、金四万円を支払え。

2  被告株式会社内外タイムス社は、原告X2に対し、平成八年から平成一二年まで毎年一二月二一日、各金四万円を支払え。

六  被告遠矢健一は、原告X2に対し、金八〇万円及びこれに対する平成五年二月一〇日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

七  原告らのその余の請求を棄却する。

八  訴訟費用は、これを三分し、その一を被告らの負担とし、その余を原告らの負担とする。

九  この判決は、主文第一、第二項、第三項の1、第四項、第五項の1及び第六項に限り、仮に執行することができる。

事実及び理由

第一  請求

一  被告株式会社国会タイムズ社及び被告五十武は、原告らに対し、別紙(一)記載のとおりの謝罪広告を、表題の「謝罪文」とある部分は二〇ポイント活字とし、本文は一二ポイント活字として、「国会タイムズ」紙第一面中央部に縦三〇センチメートル、横一五センチメートルの枠組みで一回掲載せよ。

二  被告株式会社国会タイムズ社及び被告五十武は、原告株式会社X1に対し、各自金三〇〇〇万円及びこれに対する平成五年二月五日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

三  被告株式会社国会タイムズ社及び被告五十武は、原告X2に対し、各自金五〇〇万円及びこれに対する平成五年二月五日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

四  被告株式会社内外タイムス社及び被告遠矢健一は、原告らに対し、別紙(二)記載のとおりの謝罪広告を、表題の「謝罪文」とある部分は二〇ポイント活字とし、本文は一二ポイント活字として、「内外タイムス」紙第一面中央部に縦一五センチメートル、横三〇センチメートルの枠組みで一回掲載せよ。

五  被告株式会社内外タイムス社及び被告遠矢健一は、原告株式会社X1に対し、各自金三〇〇〇万円及びこれに対する平成五年二月一〇日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

六  被告株式会社内外タイムス社及び被告遠矢健一は、原告X2に対し、各自金五〇〇万円及びこれに対する平成五年二月一〇日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

第二  事案の概要

本件は、「国会タイムズ」紙及び「内外タイムス」紙にそれぞれ後記の記事が掲載された結果、原告株式会社X1及び原告X2がこれらの記事によって名誉と信用を毀損されたとして、「国会タイムズ」紙を発行する被告株式会社国会タイムズ社及び被告五十武並びに「内外タイムス」紙を発行する被告株式会社内外タイムス社及び被告遠矢健一に対し、それぞれ、不法行為に基づき、謝罪広告の掲載及び損害賠償の支払を請求する事案である。

一  争いのない事実

1  当事者

原告株式会社X1(以下「原告会社」という。)は、金銭の貸付け、金銭貸借の媒介等を業とする株式会社であり、原告X2(以下「原告X2」という。)は、原告会社の代表取締役である。

被告株式会社国会タイムズ社(以下「被告国会タイムズ」という。)は、新聞発行等を業とする株式会社である。被告五十武は、別紙(三)の記事(以下「本件国会タイムズ記事」という。)掲載当時、被告国会タイムズの代表取締役であり、同社が発行する旬刊新聞「国会タイムズ」紙の発行人であった。

被告株式会社内外タイムス社(以下「被告内外タイムス」という。)は、新聞発行等を業とする株式会社である。被告遠矢健一は、別紙(四)及び同(五)の各記事掲載当時、被告内外タイムスの代表取締役であり、同社が発行する日刊新聞「内外タイムス」の発行人であった(以下、別紙(四)の記事を「本件内外タイムス第一記事」、別紙(五)の記事を「本件内外タイムス第二記事」といい、これら両記事を併せて「本件内外タイムス各記事」という。また、本件国会タイムズ記事及び本件内外タイムス各記事を併せて「本件各記事」という。)。

2  記事の掲載

(一) 被告国会タイムズは、平成五年二月五日付け「国会タイムズ」紙第四面及び第九面に、原告会社の事務所が所在するビルの写真及び原告X2の顔写真を掲載するとともに、「後藤田氏の“政治献金”問題を赤旗にスッパ抜いた左翼企業舎弟に狙われた大手消費者金融会社!!」「“日本の産業秩序破壊活動”」「X2(日共シンパ)が画策!」「二万人分の横流しリスト」「“共産革命”目論む暴露戦略」「金日成なみの“豪華版”」との大小の見出しのもとに、本件国会タイムズ記事を掲載した。

(二) これには、「このほど表面化した大手消費者金融会社をめぐる『顧客情報漏洩』事件は、顧客情報の“窃盗行為”を続けるグループの背後に“中堅ノンバンク”と、その参加の“不良事業者たちを操る悪徳業者”が存在するという大掛かりで前代未聞の事件に発展しつつあることが、この一日、本紙の取材で分かった。」との要約記事(リード)が記載されたうえで、本文において、要旨次のような記載がある。

(1) 今回の一連の「顧客情報漏洩」事件の背景をなすものとして、中心人物と思われる悪徳業者の“特異な前歴とその素性”に関係者の注目が集まっているが、この人物は大学在籍当時から日共の有力シンパとしての“活動歴”があり、現在も「日共との友好関係が続いている」(警察関係者の証言)という事実も本紙の取材から浮かび上がってきた。

(2) 同事件は、金融スキャンダル、証券スキャンダルに続く第三弾目の、日本の平穏なる「金融秩序」破壊に向けた「消費者金融スキャンダル」化を画策する“左翼企業舎弟”とも呼ぶべきグループによる“日本の産業秩序破壊活動”の一環の可能性もある。

(3) 今回「顧客情報漏洩」事件を引き起こしたのは、「X2」なる人物が経営する資金の中卸し会社があり、その資金系列面の傘下企業である「パブリック」以下の“街の金融会社”であるが、その手口というのは、かなり“悪どい”。先ず、大手消費者金融会社社員に当りをつけ、「給料を二倍出すからウチに来ないか」とトラバーユを持ちかけ、相手が納得すると、「顧客情報を盗み出してこい」と窃盗を教唆し、このようにして盗み出された大手消費者金融会社の「顧客情報」は、二万人分に相当するという。

(4) 今回の事件が前代未聞の様相を帯びている理由は、一連の事件が、「後楽園ファイナンス」幹部や「X1」代表の「X2」らによって周到に計画され、且つ当初から大手消費者金融会社に狙いをつけた、同業他社の“商権荒らし”を目的とした事件の性格が濃厚になってきたことである。

(5) この事件の背面には、「日本の健全で平穏なる産業、金融秩序」破壊に向けた、左翼シンパの“企業舎弟”と呼んでいいような活動家らによる、消費者金融業界の混乱と破壊を目的とした事件の性格が背後に潜んでいる可能性の大きいことが、本紙の取材で浮かび上がってきたのだ。問題の人物は、前述の「X1」代表「X2」なる人物……。

この男の“隠された素姓”を知る情報通は、次のように語る。「三重県出身で、日共党員ではなかったが、地元の高専時代から民青の有力シンパだった。埼玉大学時代は、日共系拠点校の有力校だった同校でシンパとして民青との橋渡し役として活躍した実績があるんだ」(捜査関係者)。

「ナミレイ内部の“極秘情報”を党シンパとして流した人物がこの『X2』だったんですよ」(某公安関係者)。

この“功績”により、現在もX2は「党シンパの有力者として優遇されている」(某公安関係者)。

この人物は、暴力団の「企業舎弟」の如き「左翼企業舎弟」の一人なんである。

(6) 大学在籍中から日共シンパとして活動してきた経歴を持つ「X2」なる人物

発展を遂げてきた消費者金融業界の“秩序破壊”に向けた日共シンパによる“特殊工作”

今回の消費者金融会社をめぐる顧客情報漏洩事件の“中心人物”と見られる「X2」という人物は、かつて世間を賑わした「ナミレイ事件」で、現法務大臣・後藤田正晴絡みの“政治献金問題”を“内部告発”したとされる“イワク付きの男”である。

(7) この「X2」という歴とした日共シンパの私生活は、まるで北朝鮮の「金日成」並みの“豪華版”である。

『フライデー』や『週刊実話』などによれば、五千万円のベントレーを乗り回しては、夜な夜な銀座、赤坂、六本木に出没しては月に三千万円も飲み歩く一方で、広尾の高級マンション「ガーデンヒルズ」に愛人を囲う、おおよそ、庶民とはかけ離れた生活を続けている。

(三) 被告内外タイムスは、平成五年二月三日付け「内外タイムス」紙上に、「『武富士』顧客リスト漏えい事件これが全貌だ」「追跡!!」「金融ゲリラ集団闇シンジケート」「人材引き抜きに絡み“おみやげ”として盗み出させた手口はあまりにも悪質」との大小の見出しのもとに、本件内外タイムス第一記事を掲載した。

これには、「消費者金融の最大手、『武富士』の顧客リスト漏えい事件が波紋を呼んでいる。独立した元役員二人が金銭で買いとったり、同社から人材を引き抜く際“おみやげ”に盗み出させていたものだが、ここに至り悪質な金融シンジケートの実態が浮かび上がってきた。……顧客リストは“闇市場”で一般用にも利用されたほか『武富士』潰しのため新興の消費者金融十数社にも流されたことが確認されている。……」との要約記事(リード)が記載されたうえで、本文において、要旨、「金融ゲリラ」「ブラック金融シンジケート」というものが存在し、原告会社がその中心的存在であり、その代表取締役である原告X2が株式会社武富士(以下「武富士」という。)の従業員に対して顧客リストの盗み出しを働きかけ、これを有償で買い取ったり、自分の会社に採用する際のおみやげとして求めたりするなどして武富士の顧客の横取りを図っているため、これらの行為が商道を外れたものとして、消費者金融業界で問題となっており、武富士は、業務上横領、窃盗教唆の罪で警視庁にこれを告発した等の記載がある。

また、被告内外タイムスは、平成五年二月一〇日付け「内外タイムス」紙上に、本件内外タイムス第二記事を掲載した。

これには、原告X2の写真が掲載されるとともに、武富士から業務上横領教唆で告発されているのは原告会社その他数社を経営する原告X2であることが再度記載され、武富士の顧客リスト漏えいの背後には「金融ブラックシンジケート」があり、その中心が原告X2である等の記載がある。

3  被告内外タイムスの和議認可決定

被告内外タイムスについては、平成六年一〇月三一日、次のとおりの和議条件で和議認可決定がなされ、これは平成六年一二月二〇日に確定した(当庁平成五年(コ)第二三号和議開始申立事件)。

(一) 債務者は、各和議債権者(ただし、名古屋和弘を除く)に対し、本件和議認可決定確定の日から一年を経過した日を第一回とし、爾後一年毎に第六回まで、それぞれ各和議債権元本額の五パーセント宛を支払う(合計三〇パーセント)。

(二) 債務者は、和議債権者名古屋和弘に対し、本件和議認可決定確定の日から七年を経過した日を第一回とし、爾後一年毎に第二回まで、それぞれ和議債権元本額の一五パーセント宛を支払う(合計三〇パーセント)。

(三) 各和議債権者は、(一)項又は(二)項の支払がなされたときは、その余の元本債権と利息損害金債権の全部を免除する。

二  原告らの主張

1  名誉毀損

本件国会タイムズ記事は、大手消費者金融会社の顧客情報漏えい事件が、原告会社の代表者であり、日本共産党のシンパである原告X2の画策によって行われたこと、その一環として原告X2が大手金融会社の従業員に対して顧客リストを盗み出すよう教唆し、それが日本の金融秩序の破壊を目的とした行為であること、「ナミレイ」の内部情報が日本共産党機関紙「赤旗」に流れたのは、原告X2の情報提供によるものであったこと、原告X2の私生活が贅沢の限りを尽くしていること等の虚偽の事実を内容としており、一般読者をして右事実をあたかも真実であるかのように思わせるものである。そして、本件国会タイムズ記事の内容が事実無根の悪意に満ちた中傷であることからすると、極めて違法性の高いものであり、原告らは同記事により著しく信用と名誉を傷つけられた。

また、本件内外タイムス各記事は、原告らが「ブラック金融シンジケート」なるものの中心的存在であり、武富士の従業員に顧客リストの盗み出しを教唆して、不正な方法で武富士の顧客の横取りを図ったとするもので、その内容は虚偽である。同各記事には、「金融ゲリラ」「ブラック金融シンジケート」という文言が用いられるなど、悪意に満ちており、原告らは、同各記事により、著しく信用と名誉を傷つけられた。

2  責任

被告五十及び被告遠矢は、それぞれ「国会タイムズ」及び「内外タイムス」の発行に携わる者として、記事の掲載に当たっては他人の信用又は名誉を毀損することのないよう厳重な注意を払うべき義務を負っている。

また、被告国会タイムズ及び被告内外タイムスは、それぞれ新聞事業に携わる者として、他人の信用又は名誉を毀損する記事が掲載されている新聞を販売することのないようにする注意義務を負っている。

しかるに、被告らは、本件各記事掲載に際し、右のような注意義務を一切無視し、原告らを中傷することを目的として本件各記事をそれぞれ掲載したものであり、原告らの信用又は名誉の毀損につき故意又は過失があることは明らかである。

3  共同不法行為

平成五年二月ころ、月刊「政界」、月刊「政財界ジャーナル」、月刊「ゼンボウ」、「月刊タイムス」、月刊「財界人」及び月刊「実業往来」においても、本件各記事と同様の記事が掲載されたが、これらの記事及び本件各記事は、いずれもその情報源及び発行時期を同じくしているから、共同不法行為にあたり、前記各雑誌を発行する雑誌社及び本件被告らは、原告らが名誉毀損によって被った後記の全損害について連帯して賠償すべき責任がある。

4  損害

(一) 原告会社は、融資元の後楽園ファイナンスから融資額を減額され、これにより貸付利息相当額八五二五万一〇〇二円の得べかりし利益を失った。原告会社は、被告らに対し、このうちの二〇〇〇万円を一部請求として請求する。

本件各記事によって毀損された原告会社の信用と名誉を回復するためには、それぞれ謝罪広告の掲載が必要であり、また、その無形の損害をてん補するためには、右謝罪広告とともに少なくとも一〇〇〇万円の支払が必要である。

(二) また、原告X2は、本件各記事によって、原告会社の経営者として消費者金融業界で築き上げてきた信用と名誉を著しく毀損されたものであり、同業界での信用と名誉を回復するためには、それぞれ謝罪広告の掲載が必要であり、また、その精神的損害をてん補するためには、少なくとも五〇〇万円の支払が必要である。

5  よって、原告らは、被告国会タイムズ及び被告五十に対し、不法行為による損害賠償請求権に基づき、原告会社については三〇〇〇万円、原告X2については五〇〇万円及び右各金員に対する不法行為の後である平成五年二月五日から支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求めるとともに、民法七二三条に基づく名誉回復のための処分として前記「請求」第一項記載の謝罪広告の掲載を求め、また、被告内外タイムス及び被告遠矢に対し、不法行為による損害賠償請求権に基づき、原告会社については三〇〇〇万円、原告X2については五〇〇万円及び右各金員に対する不法行為の後である平成五年二月一〇日から支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求めるとともに、民法七二三条に基づく名誉回復のための処分として前記「請求」第四項記載の謝罪広告の掲載を求める。

三  被告らの主張

1  違法性阻却事由の存在

(一) 事実の公共性及び目的の公益性

原告X2が他の消費者金融会社の有する顧客リストを持ち出させたという本件各記事記載の事実は、犯罪行為にほかならず、個人のプライバシー及び企業秘密を侵害する行為であり、また、他社の従業員を引き抜くということは消費者金融業界の倫理に反するものであって、大きな社会的影響を有する公共の利害に関する事実である。

被告国会タイムズ及び被告五十は、右事実を明らかにして社会の注意を喚起し、業界関係者らに警鐘を鳴らす目的をもって、本件国会タイムズ記事を掲載した。

被告内外タイムス及び被告遠矢は、原告会社の融資元である後楽園ファイナンスを含めた関係者らの右事件に関する責任の所在についての情報を国民に伝える目的をもって、本件内外タイムス各記事を掲載した。

(二) 本件国会タイムズ記事の真実性又は真実と信ずるについての相当の理由

(1) 被告国会タイムズは、平成四年一一月中旬ころ、消費者金融業界の最大手である武富士の元役員である原告X2の指示によって、同人の関与する消費者金融会社が武富士の従業員を引き抜き、その従業員らに武富士の顧客情報を大量に持ち出させていたことを告発するとする文書を入手した。

(2) そこで、被告国会タイムズにおいて、武富士の取締役浅川博之(以下「浅川」という。)ら武富士関係者を継続的に取材した結果、この告発文書の内容が概ね正確であることのほか、次の事実が判明した。

① 武富士から他の消費者金融会社に従業員が引き抜かれ、その従業員らによって大量の顧客情報が持ち出されて流出し、同人らの転職先の消費者金融会社において、その情報がダイレクトメールの発送等に利用されているが、この武富士従業員に対する引き抜きと顧客情報の流出は、後楽園ファイナンスの取締役副社長である大石眞雄(以下「大石」という。)の支援のもとに、武富士の元役員である原告X2及び同様に元役員であり、武富士の会長武井保雄(以下「武井」という。)の義弟である中村英俊(以下「中村」という。)らが中心となって計画的に行われたものである、と武富士では認識していた。

② 武富士においては、右認識のもとに、平成四年一一月一〇日以降、顧客情報の流出に直接関与した者ら一〇名余を業務上横領、窃盗及び同教唆等を容疑内容とする告訴をし、原告X2に対しても今後告訴する方針であった。武井は、後楽園ファイナンスの代表取締役保坂誠に対し、平成四年一二月二九日付けで、同社の副社長大石が、千代田トラスト外一二社の消費者金融会社において原告X2を中心として武富士従業員の引き抜きと顧客情報の持ち出しを行っていることを知りながら、これらの会社に対して融資資金を提供していることについて、強く抗議する旨の書簡を送付した。

③ 武富士は、業界団体及び業界の情報センターに対し、千代田トラスト等を除名するよう求める旨の申立てを行っていた。

④ 右に述べた武富士の認識及び行為は、武富士が平成四年九月から行った極めて大規模な調査、すなわち、同社の全支店四五四店につき、同社の顧客の約七割に当たる約一〇〇万人に対して行った、他の消費者金融会社からダイレクトメールを受け取ったか否かの調査、武富士従業員に対して行った、転職及び顧客情報持ち出しの勧誘の有無についての聞き取り調査、右ダイレクトメールを発送した消費者金融会社に対して行った、役員構成及び武富士退職者の在職の有無の調査、さらには、原告X2をはじめとする関係者個人に対して行った調査に基づくものである。

(3) 被告国会タイムズにおいては、武富士の右調査及びこれに基づく同社の認識は十分信頼できるものと考えたが、さらに取材を行い、他の大手消費者金融会社からは顧客情報の流出問題が生じていないこと及び千代田トラスト等の会社では新聞広告による従業員募集活動はほとんど行われていないことを確認した。

(4) 被告国会タイムズでは、原告X2の遊興状況及び交遊関係を調査するとともに、公安関係者から原告X2の経歴・活動を取材し、また、原告X2に対して取材の申込みをしたが、原告X2はこれに応じなかった。

(5) 以上の事実からすれば、武富士からの従業員の引き抜き及び顧客情報持ち出しが原告X2の計画にかかるものであること及び原告X2のこのような行動の目的が武富士の商権荒らし、さらにはこれを通じて消費者金融業界の秩序に混乱を生じさせることにあったことは真実であり、仮にそうでないとしても、被告国会タイムズ及び被告五十らにはそれを真実と信じるについて相当の理由があった。

(三) 本件内外タイムス各記事の真実性又は真実と信ずるについての相当の理由

(1) 被告内外タイムスは、金融、経済を専門とする社外ライターの石川明保こと石川明(以下「石川」という。)に依頼し、武富士の取締役浅川ら武富士関係者数名を取材した結果、被告国会タイムズが主張する事実(右(二)の(2)の①ないし③)が判明したほか、次の事実が判明した。

武富士は、「週刊新潮」平成五年一月二六日号において、「内部告発で漏れ出した武富士の超大型焦げつき」と題する記事について、右記事が同社の名誉、信用を毀損するものであるとして、新潮社を被告として謝罪広告等を求める訴えを提起するとともに、同誌編集長らを警視庁に告訴することを決定したが、武富士においては、右記事の内部告発者とは原告X2らにほかならないと考えていた。

(2) 石川は、武富士の右調査及びこれに基づく同社の認識は極めて信頼できるものと考えたが、さらに後楽園ファイナンスに取材して、同社が原告会社に融資していること及び同社の副社長大石と原告X2とは、原告X2が武富士に在職した当時から交際があることを確認した。

(3) 石川は、原告X2の遊興状況について取材するとともに、原告X2に対して取材の申込みをしたが、同人はこれに応じなかった。

(4) 本件内外タイムス各記事掲載以前である平成五年一月二二日付け産経新聞において後記2の(二)記載の記事が掲載され、同旨の記事は、他の全国紙にも掲載され、テレビにおいても放送されるに至った。

(5) 被告内外タイムスにおいては、石川の右取材によって、武富士の認識は真実であると考えたが、仮に真実でないとしても、右取材経過等に照らせば、被告内外タイムス及び被告遠矢が本件内外タイムス各記事の内容を真実であると信じたことにつき相当の理由がある。

2  本件各記事と名誉毀損及び損害との関係

(一) 平成四年一二月二五日ころに発売された週刊「フライデー」平成五年一月八日・一五日号においては、原告会社の代表取締役である原告X2が、銀座等で派手な遊興をしていること、原告X2は、業界の乱暴者といわれており、武富士から独立後、一〇〇人を超える武富士や大手金融会社の従業員を言葉巧みに引き抜き、系列の金融会社を二〇近く作らせたうえ、これらの金融会社に対して他の同業者が有している顧客名簿を提供し、引き抜く人間に名簿を持ち出させたり、その売買までしたりしていると噂されていること及び原告X2を顧客名簿流出の黒幕と指摘する関係者が多いこと等が掲載された。

(二) 平成五年一月二二日付け「産経新聞」においては、武富士の元役員二人が独立して消費者金融会社を設立後、退職前の部下に約二万人分の顧客リストを横流しさせていた旨及び武富士では、この背後には顧客リストを回し合う大がかりなグループがあるとみて、元役員ら四人を業務上横領罪で告訴する準備を進めている旨の記事が掲載された。

そのほか、他の全国紙にも同旨の記事が掲載され、また、テレビでも同旨の放送がされていた。

(三) したがって、原告らの名誉は、本件各記事が掲載された時点では、以上のような各記事の報道によって既に著しく低下させられていたから、本件各記事による名誉の低下はなく、損害は生じていない。

四  争点

1  本件各記事が原告らの名誉及び信用を毀損するか。

2  本件各記事の内容が公共の利害に関するものであり、その掲載が専ら公益を図る目的に出たものか。

3  本件各記事の内容の真実性又は真実と信ずるについての相当の理由があるか。

4  被告らの責任及び原告らの損害。

第三  争点に対する判断

一  名誉毀損の有無

1  前記争いのない事実及び甲第一号証によれば、本件国会タイムズ記事は、大手消費者金融会社の約二万人分の顧客情報が漏えいした事件の発生を伝えるとともに、この事件は複数の街の金融会社が大手消費者金融会社の従業員に転職をもちかけ、顧客情報を持ち出すことを教唆したことによるものであること、これらの金融会社は後楽園ファイナンス及びその傘下にある原告会社の支配下にある企業集団であり、この顧客情報漏えい事件は後楽園ファイナンスの副社長大石及び原告X2が当初から大手消費者金融会社の商権荒らしを目的として周到に計画したものであること、これは原告X2が日本の産業秩序の破壊活動としてもくろんだものである可能性が大きいこと及び原告X2は以前「ナミレイ」の政治献金問題を内部告発した経歴をもつ左翼シンパであり、現在は極めて贅沢な私生活を送っていることなどを内容とするものである。

次に、前記争いのない事実及び甲第二号証によれば、本件内外タイムス第一記事は、武富士の顧客情報約二万人分が漏えいした事件について、これは原告X2及びその経営する原告会社の傘下にあるパブリックの代表者中村が、武富士の支店長等に対して顧客リストの横流しを教唆したものであること、武富士は右二人を含め一〇数人の関係者を業務上横領罪、同教唆罪等の容疑内容で警視庁に告発したこと及びこの事件は原告会社及び千代田トラストが中核になっており、後楽園ファイナンスをバックにした「ブラック金融シンジケート」「金融ゲリラ集団」と呼ばれる企業集団が、右により入手した武富士の顧客リストを利用して武富士の顧客を横取りしていることなどを内容としている。また、甲第三号証によれば、本件内外タイムス第二記事には、原告X2の顔写真が掲載され、武富士の顧客リストが盗み出された事件について、その背後には原告X2を中心とする金融ブラックシンジケートが存在し、武富士が原告X2を顧客リストの業務上横領教唆として告発していること等が記載されている。

これらの本件各記事は、いずれも、通常の注意力をもつ一般読者に対し、原告X2が大手消費者金融会社の顧客情報の大規模な横流し又は持ち出しという反社会的行為の首謀者であり、その経営する原告会社とともに右行為の中心的存在であることを印象づけるもので、本件各記事がそれぞれ原告らの名誉又は信用を毀損するものであることは明らかである。

なお、本件内外タイムス第二記事の原告らについての記載は、その一週間前に掲載された同第一記事の内容と重なるものであるが、本件内外タイムス第二記事の読者が必ずしも同第一記事の内容を認識していたとはいえず、また、同第二記事は、原告X2の顔写真を掲げたうえで、顧客情報漏えい事件に対する原告らの関与について再度記載しているものであって、読者に対してこの内容をさらに強く印象づけるということができるから、本件内外タイムス第二記事もまた原告らの名誉又は信用を毀損するものというべきである。

2  被告らは、本件各記事の掲載に先立ち、前記週刊フライデー及び産経新聞等に本件各記事と同様の内容の記事が掲載され、これらによって武富士の顧客情報漏えい事件に関する原告らの名誉又は信用は既に著しく低下させられていたと主張する。

確かに、乙第四ないし第七号証、第一九、第二〇号証によれば、本件各記事に先行して、週刊フライデー、産経新聞、朝日新聞、日刊ゲンダイ及び毎日新聞に、武富士の顧客情報漏えい事件に関する記事が掲載されたことが認められる。しかし、右各証拠によれば、週刊フライデーの記事は、原告X2が右事件に関与している点については断定を避け、噂があるとの表現にとどめていること及び産経新聞、朝日新聞、日刊ゲンダイ及び毎日新聞の各記事は、原告らの実名を記載せず、これをうかがわせるものでもないことが認められるから、右事情によれば、これらの記事によって、原告らの名誉又は信用がさらに毀損される余地のないほどにまで既に低下させられていたと認めることはできず、被告らの右主張は採用できない。

二  事実の公共性及び目的の公益性

本件国会タイムズ記事は、前記のとおり、大手消費者金融会社における大規模な顧客情報漏えい事件について、競合関係にある同業者が、他社の従業員を引き抜き、その際に顧客リストを盗み出してくるよう教唆したものであって、これは、原告X2らが当初から商権荒らしを目的として画策したもので、消費者金融業界の混乱を目的とした活動である可能性があるとする事実を内容としている。

また、本件内外タイムス各記事は、原告X2らが武富士の従業員に対して転職及び顧客情報の持ち出しを勧誘し、この顧客情報を原告会社の傘下の金融業者に使用させたことなどを内容としている。

消費者金融会社の顧客リストが漏えいしたことは個人のプライバシーに関わる事実であり、この持ち出しを唆すことは犯罪となり得る行為であるから、原告らが計画的にこれに関わっていたとする本件各記事の内容は公共の利害に関するものというべきである。

そして、前記認定事実及び弁論の全趣旨によれば、本件各記事は、武富士の顧客情報漏えい事件について、原告らが前記のような犯罪的行為を行い、又はこれに中心的に関与したことを告発する趣旨から報道されたものということができるから、原告らの行為を論評するに当たって適切を欠くような表現がされているにしても、本件報道目的について他の特段の事情を認めるに足りる証拠がない以上、被告らがそれぞれ本件各記事を掲載したのは専ら公益を図る目的に出たものと認めることができる。

三  真実性

1  そこで、以下、本件各記事に共通した主要な内容である、原告らが武富士の従業員に対する引き抜き行為及び顧客リストの横流し又は持ち出しについてその中心的存在として関与したことが真実であるかどうかについて検討する。

2  甲第四号証、第六号証の一及び二、第八ないし第一三号証、第一七、第一八、第三四号証、乙第一、第二号証、第三号証の一及び二、第八及び第九号証の各一ないし六、第一〇号証の一の一ないし五及び同号証の二、第一一ないし第一七号証、第二二号証の一及び二、第二三号証の一ないし八、第二四ないし第二六号証、第三六号証の一ないし四並びに証人大川啓一の証言によれば、本件の顧客情報漏えい事件の発覚からの経緯、武富士による調査結果等について、次の事実が認められる。

(一) 武富士は、平成三年六月ころ、消費者金融会社が顧客の借入状況を確認するために利用する個人信用情報機関である徳島情報センターから、県外である株式会社パブリックの宮崎支店からの照会件数が通常より一〇倍ないし二〇倍ほど多いとの連絡を受けた。さらに、平成四年には、千葉、横浜など東京近県の顧客から、知らない業者からダイレクトメールが来るとの苦情を受け、これにはパブリックからのものも含まれていることを確認したので、改めて徳島情報センターに連絡を取った。その結果、他の中国四国地区の一部情報センターでもやはりパブリックの県外からの照会が多いこと、また、パブリックが主としてダイレクトメールを用いて融資勧誘をしていることが判明した。

(二) そこで、武富士としては、自社の顧客リストが漏れていることを危惧し、社内にプロジェクトチームを結成して次のとおり調査を行った。

(三) まず、武富士は、平成四年一〇月一二日から同年一一月一〇日ころにかけて、全支店をあげて、取引のある顧客の七割以上である一〇三万六八九一人に対して電話による調査を行い、同約二割を占める二九万四二五五人から、同業他社からダイレクトメールが届いているか否か、また、届いている場合にはその発送元及びダイレクトメール現存の有無について回答を得た。この調査結果を集計したところ、パブリック、千代田トラスト、栄光、アーバンライフ、エイト、マルゼンリース、エイ・ジイ・エヌ、オー・シー・エス、トキオビジネス、フジミリース、みその及びコンパスの一二社からダイレクトメールが届いていると回答した顧客は回答者の2.06パーセントに当たる六〇五〇人にのぼること、ダイレクトメールを受領した顧客は地域的に偏っていること、同一の顧客に数社からダイレクトメールが届いている場合もあること及び武富士とのみ取引している顧客にダイレクトメールが届いていることが判明し、武富士は、これらの業者からのダイレクトメール約二〇〇件を回収した。なお、武富士においては、オー・シー・エスのダイレクトメールの現物は確認していない。

(四) 武富士は、この電話調査と並行して、自社従業員を対象として社内調査を行い、同業他社からの転職の勧誘及び顧客情報の持ち出しの唆しがあったかどうかについて自己申告を募り、その結果、前記の一二社から転職の勧誘があったと回答した者が約二九名あったこと、そのうち千代田トラストとパブリックが多いことが判明した。しかし、原告X2から転職の勧誘を受けたという情報はなかった。

(五) さらに武富士は、前記一二社を含む同業他社の資金的関係、融資関係並びに役員及び従業員の人的関係について調査したところ、以下の事実が判明した。

オー・シー・エス、みその、アーバンライフ、栄光、パブリック、エイト、トキオビジネス、エイ・ジイ・エヌ、マルゼンリース及び原告会社は、武富士の元役員又は従業員が代表者となっており、オー・シー・エスは原告会社の子会社である。

原告会社は後楽園ファイナンスから融資を受けており、栄光、パブリック、トキオビジネス及びエイ・ジイ・エヌは原告会社から融資を受けている。なお、武富士は、みその及びアーバンライフも原告会社から融資を受けているとの調査結果を得た。

原告X2は千代田トラストの取締役でもあり、原告会社は千代田トラストとの間で経営コンサルティング契約を結び、営業方針の指導をしている。また、原告会社は、パブリックに対して業務監査をしている。

(六) 武富士は、これらの調査の過程で、原告会社が千代田トラストに対して一七万六〇〇〇人分のダイレクトメール発送対象客リストを売り渡す旨の平成二年六月七日付け売買契約書及び住所、生年月日、貸付残高等の記載のある五〇名分の名簿を入手した。この名簿は武富士の顧客リストではなかったが、その中には武富士の顧客一一名が含まれていた。

(七) 以上の調査の結果をふまえ、武富士会長の武井は、後楽園ファイナンス代表取締役保坂誠に対し、原告会社の原告X2が中心となって千代田トラストが行っている転職勧誘及び顧客情報漏えいに前記一二社がかかわっているが、これら一二社は原告会社を通して後楽園ファイナンスから融資を受けているのであるから、後楽園ファイナンスは融資元としてこれらの事実を知っていたはずであること及び後楽園ファイナンスの副社長大石が千代田トラストの行為の最終決裁をしていることなどを記載して、後楽園ファイナンスとして、この事件につき善処することを求める内容の文書を送付した。

また、武富士は、右の経緯について株式会社情報センター宛、関東財務局の理財部及び同局長宛にそれぞれ文書を送付した。

また、パブリック、アーバンライフ及びハーツの者から教唆を受けて顧客情報を持ち出したとして従業員四名を懲戒解雇処分にしたが、そのうちの一人である山中正は、武富士を被告として雇用関係確認等請求訴訟を提起し、解雇を無効とする判決が言い渡された。

さらに、武富士は、パブリック、アーバンライフ、ハーツ及びエイワの関係者を顧客情報の窃取又は横領について告訴したところ、これらについて刑事事件になり、そのうちアーバンライフ及びエイワの関係者について、有罪の判決が言い渡された。しかし、武富士は、オー・シー・エス、マルゼンリース及びエイ・ジイ・エヌについては、顧客リストの漏えいに関して告訴するに足りる証拠を得ることができず、また、原告X2に対しても告訴していない。

武富士は、パブリックを被告として、従業員の引き抜きと顧客リストの漏えいに関わったとして損害賠償を求める訴訟を提起したが、請求棄却の判決が言い渡された。

千葉県貸金業協会は、パブリックに対し、他社従業員の引き抜き及び顧客情報の横領教唆により、厳重注意処分をし、ジャパン・データ・バンクも、パブリックに対して、信用照会の一時停止処分をした。

(八) 印刷会社であるエイエヌオフセットで営業を担当していた大川啓一は、平成六年三月ころ、エイ・ジイ・エヌから印刷注文の話があったので、その事務所を訪れたところ、エイ・ジイ・エヌには武富士の元従業員が多数勤務していることを知った。その際、エイ・ジイ・エヌから五万人分の顧客名簿を持っているので、その顧客に対するダイレクトメールの封筒等の印刷を依頼したい旨の話があり、その後数か月間交渉があったが、結局、受注に至らなかった。

3  そこで、右認定事実に基づいて検討するに、右認定に係る武富士の前記調査結果については、その正確性に全幅の信頼をおくことはできない。なぜなら、この調査においては、まず、オー・シー・エスから武富士の顧客に対して平成四年一〇月末までに三〇二通のダイレクトメールが発送されているとの集計結果が出されている(乙第一号証)が、甲第五号証及び証人大熊正博の証言によれば、同社は、債権回収業務を主として行っており、平成四年一〇月に消費者金融を始めたばかりであって、その残高は同年一〇月末現在一顧客一五万円、一一月末現在五顧客七四万円、一二月末現在七顧客七八万円とわずかなものにとどまることが認められ、果たして同年一〇月末までに、右のような多数のダイレクトメールを発送したかについては疑問が生じる。加えて、前記のとおり、オー・シー・エスについては武富士においてダイレクトメールの現物を確認していない。これらの事情と右甲第三号証の記載とを併せ考えると、オー・シー・エスがダイレクトメールを武富士の調査結果どおり発送していたと認めるのは大いに疑問である。また、前記一二社のみの集計結果しか出されておらず、ダイレクトメールの現物を保持していない顧客が見知らぬ業者の名を正確に記憶していることには疑問があるし、調査方法も電話による聞取り調査というだけで、どのような発問をどのような手順で行ったか、本件証拠上明らかではない。これらの点を考えれば、武富士の調査結果への信頼性は揺らがざるを得ない。

次に、原告会社と千代田トラストとの間の一七万六〇〇〇人分の名簿の売買契約書については、乙第二二号証の一によれば、代金が二〇〇〇万円と高額であることが認められるが、その入手先が明らかにされていない上、五〇名分の名簿(乙第二二号証の二)が果たして右売買契約書と関係があるのか、右売買契約の対象となったリストがどのようなものであったのかについては不明である。

これらの事情を考慮すると、前記認定事実をもってしても、原告らが武富士従業員の引き抜き及び顧客情報の漏えいに関与していることが真実であったと認めることはできない。もっとも、甲第四号証、第九ないし第一三号証、第一七、第一八号証及び乙第二四ないし第二六号証によれば、武富士の取締役浅川は、原告X2が、前記一二社との関係から、これらの業者による従業員の引き抜き及び顧客リストの入手について当然知り得る立場にあり、これを制止するどころか承知のうえで、右業者らと融資等の関係を継続していたとの認識を有していたことが認められるが、右事実は浅川の主観的事情に過ぎないというべきであって、これを加味してみても、原告らがこれらの行為に直接関与したと認めることは到底できない。

また、証人大川啓一は、エイ・ジイ・エヌには五万人分の名簿があり、これは武富士から手土産として持ち込まれたものである旨聞いたと証言するが、それは前記認定のとおり本件漏えい事件から一年半近く経った平成六年三月ころのことであり、証人大川自身、右五万人分の顧客リストをどのようにエイ・ジイ・エヌが入手したか結局わからないまま、これが武富士から漏えいしたものであると考えたのは、エイ・ジイ・エヌに武富士出身者が多数いるからに過ぎない旨述べており、右証言をもって顧客リストの持ち出しの事実を認めるには飛躍がある。さらにまた、証人大川は、原告X2自身がこの顧客情報の漏えいに関与しているか否かという点については、エイ・ジイ・エヌの取締役中森修が原告X2と付合いがあるという程度のことしか述べていないのであるから、やはり本件各記事が真実であることを立証するには足りないというべきである。

四  真実と信ずるについての相当の理由

1  本件国会タイムズ記事について

(一) 前記認定事実と乙第一、第二号証、第三号証の一及び二、第八及び第九号証の各一ないし六、第一〇号証の一の一ないし五及び同号証の二、第一一ないし第一五号証、第一八号証の一ないし三、第二四号証、第二九号証の一ないし八並びに証人加持清一の証言を総合すれば、次の事実が認められる。

(1) 本件国会タイムズ記事のうち、見出しの一部及び「『M通信』情報と酷似」との小見出しとこの見出しの下の本文を除いたその余の記事を執筆したのは、当時「週刊大衆」のフリーの記者であった加持清一(以下「加持」という。)であり、同人は、平成五年一月二〇日すぎに本件国会タイムズ記事の原稿を被告国会タイムズに提出した。

(2) これに先立ち、加持は、平成四年一〇月初旬ころ、街の金融業者の会合で、原告X2がやくざとかかわりをもっているとの噂を耳にし、また、知人から武富士としか取引がないのに知らない金融業者のチラシが来るとの話を聞いていたところ、同月二七、二八日ころ、原告X2の行状とともに、同人が武富士の顧客情報漏えい事件に計画的に関与している旨が記載されている作成者不詳の怪文書(乙第一八号証の一)を入手した。

(3) そこで、加持は、「週刊大衆」へ掲載する記事を執筆するため調査を始め、同文書に記載されている関係会社である原告会社、パブリック、千代田トラスト及びオー・シー・エスの各商業登記簿謄本をとり、右文書に記載されている他の会社の登記簿についても閲覧し、中村及び原告X2の自宅の登記簿謄本をとったほか、大蔵省で原告X2が武富士に在職していたことについて調査し、さらに、後楽園ファイナンス関係の東京ドームの決算書を調査した。

(4) 加持は、同時に、原告X2及びパブリックに対して個人名で取材の申込みをしたが、連絡が取れなかった。また、大蔵省、関東財務局、全銀連等に対して、怪文書記載の事実関係を把握しているかどうか確認したが、明確な情報は得られなかった。さらに、銀座のクラブ、公安関係者にも取材したが、結局、同年一一月末の時点では週刊誌に掲載できる記事を執筆するほどの情報量が集まらず、一旦取材を打ち切った。

(5) その後、加持は、同年一二月一四日、被告五十嵐に会った際に、国会タイムズに寄稿することになったため、取材を再開し、同月一五日には原告X2と連絡が取れたが、取材を断られた。

加持は、従前、「潮流ジャーナル」という雑誌を発行していた天野博雅からナミレイ事件に関連して原告X2の名を聞いていたが、平成五年一月ころ、同人の経歴について、ナミレイの元社長である松浦某に対して取材をし、主としてナミレイ事件当時の原告X2の行動等について話を聞いた。

(6) また、加持は、平成五年一月一五日以降、武富士の取締役浅川に対して取材し、武富士の前記調査結果について情報を得るとともに、武富士が作成した報告書、事件関係図、調査結果の一覧表、従業員にあてた書類、「X2に関する情報」と題する書面及び業界関係者又は関東財務局にあてた書類等の各写しを入手し、さらに、浅川から、武富士が顧客リストの横領等に関して行う告訴についての書類や調査の過程で入手したダイレクトメールの現物、顧客からの聞き取りを記載した書面等を見せられた。その際の浅川の話としては、この顧客情報漏えい事件の中心人物は原告X2ではないかという疑念はあるが、確証がないこと、また、この事件が武富士に対して何らかの攻撃を仕掛ける意図から出たものであるかどうかについては分からないこと、調査次第では原告X2を告訴したいという意思があるということであった。

(7) 加持は、予定掲載スペースよりも少し少ない分量の記事を執筆し、被告国会タイムズに対して、改めて同社の名で取材を行い、特にパブリック、後楽園ファイナンス及び武富士などから必ずコメントをとってこれを加筆し、記事について事実誤認等があると指摘された場合にはその部分を削除するように念を押して、取材先一覧表とともに原稿を提出した。結局、これらのコメントは挿入されず、前記「M通信」に関する部分のほかは加除訂正のないまま本件国会タイムズ記事が掲載された。

なお、「M通信」に関する部分については、誰がどのような取材に基づいて執筆したものかは不明である。

(二)  以上の事実関係に照らせば、被告国会タイムズ及び被告五十嵐において、原告X2が大手消費者金融会社の顧客情報漏えい及び従業員引き抜きを計画し、中心的存在として関与していたという本件国会タイムズ記事の主要な内容をなす事実について、これを真実であると信じたとしても、それは浅川の前記意見に主たる根拠を置くものというほかない。証人加持の証言には、武富士従業員の引き抜き及び顧客情報漏えいについて、消費者金融会社及び武富士の退職者に対して取材をし、また、公安調査庁及び暴力団関係者などに対しても、原告X2の交遊関係等について取材をしたとする部分があるが、同証人はその取材先について明らかにせず、また取材した結果がどのようなものであったかについても詳しい証言を避けており、右の取材から真実であると信ずるに足りる情報を得たかどうか明らかではない。そうすると、結局、原告X2が従業員の引き抜き及び顧客情報漏えいに関与したとする部分については、以前にナミレイに絡む事件も起こり、現在は暴力団関係者とのかかわりも深いということから、執筆者である加持が原告X2について倫理観に欠ける人物であると考え、そのような認識に基づき、前記浅川の話からこれらの事件の首謀者であることを推認しているに過ぎないのであって、これが真実と信ずる相当な理由たり得ないことはいうまでもなく、他にこれを証するに足りる証拠はない。

2  本件内外タイムス各記事について

(一) 前記認定事実と甲第四号証、第九ないし第一三号証、第三〇号証、乙第一、第二号証、第三号証の一及び二、第八及び第九号証の各一ないし六、第一一ないし第一七号証、第一八号証の一ないし三、第一九号証、第二四ないし第二六号証、丙第八、第九号証並びに証人石川明の証言を総合すれば、以下の事実が認められる。

(1) 石川は、平成四年一二月二五日ころに発売された前記週刊フライデーの記事を読み、経済記者との情報交換から、武富士の顧客情報漏えい事件は消費者金融業界を揺るがせている大問題であると知り、前記加持から作成者不詳の怪文書(乙第一八号証の一)を入手するなどして、平成五年一月初旬ころから取材を始めた。

(2) 石川は、まず、情報センター、貸金業者協会連合会及び全金連から顧客リスト漏えい事件の概要とその業界への影響について話を聞き、関東財務局などに取材した。そして、同月一四日以降、数回にわたり、武富士の広報室を取材し、武富士の行った記者会見にも出席した。石川は、この過程で、武富士における顧客リスト漏えい事件の発覚の経過、調査の統計結果等について取材し、武富士が作成した報告書、事件関係図、調査結果の一覧表、従業員にあてた書類、業界関係者及び関東財務局にあてた書類等の各写しを入手し、さらに、浅川から、武富士が顧客リストの横領等に関して行う告訴についての書類や顧客リストの漏えいを唆されたり、転職の勧誘を受けたとする従業員の上申書等を見せられた。その際、石川は、浅川から、顧客リストの漏えいに関与したとされる金融会社については、原告X2が影響力を持っていること、原告X2を告訴する考えであること、右金融会社は、原告会社と資金的又は人的関係が深いことについて説明を受けた。

(3) さらに、石川は、橋本洋志に依頼して後楽園ファイナンスの総務部長や第一勧業銀行の総務部から原告会社ら前記各金融会社の融資関係について取材し、街の金融業者及び経済記者からも事件の外形的情報を収集したほか、知人のジャーナリスト堀川健三らから、原告X2の交遊関係及び私生活について取材した。

石川は、原告会社及び千代田トラストに電話をして、取材目的を述べて原告X2に対して取材を申し込んだが、結局実現されなかった。

(4) 石川としては、以上のような取材の過程で、原告X2が顧客情報漏えい事件の中心人物であると信じるに至った。その根拠は、次のようなことであった。

まず、石川は、取材の端緒となった週刊フライデーの記事あるいはその周辺事情につき、フライデーの知合いの記者に確かめたところ、具体的根拠は何も示されなかったものの、信頼できると考えていた右記者が自信を持っている様子であったので、これを信用した。次いで、右の武富士の浅川から情報提供を受け、その情報とこれを裏付ける武富士の調査結果などの客観的資料とを照らし合わせて間違いないと考えた。浅川の情報には原告X2が直接関与している事実は含まれていなかったが、各金融会社相互の関係などから、関与していることは明らかであると判断したものである。

(5) このような取材に基づき、石川は、見出しを除く本件内外タイムス第一記事を執筆し、平成五年一月末から翌二月初めころに被告内外タイムスに対してこれを提出した。

さらに、石川は、同年二月初めに被告内外タイムスから依頼を受け、本件内外タイムス第二記事を執筆し、同月六日ころまでにこれを提出した。

(二)  以上の事実関係に照らせば、原告らが武富士の顧客情報漏えい事件に関与しているという石川の判断は、原告X2が前記一二社の各金融会社に対して影響力をもっており、これら会社は資金的又は人的関係から企業グループを形成していると浅川が説明したこと及びこれを示唆する資料以外には客観的根拠はなかったといわざるを得ない。石川は、これらの事情を前提として、末端で行われた不正行為について原告X2が知らないはずはないとの推測に基づいて右関与の事実を断定したものである。しかし、前記認定のとおり、原告会社と一二社の関係は、その一部に、融資関係があることのほかは、武富士の元役員又は従業員が代表者になっているというだけのことに過ぎず、浅川が、それ以上に同社らが緊密な企業グループを形成しているというべき具体的事情を示したとの証拠はないから、右の根拠からそのような推測をすることを正当とすることはできない。そうすると、結局、被告内外タイムス及び被告遠矢において、原告らの右関与の事実について、それが真実であると信ずるに足りる相当の理由があるとすることはできない。

五  被告らの責任及び原告らの損害

1  被告らの責任

(一) 以上によれば、被告五十嵐は、本件国会タイムズ記事を掲載して発行し、もって原告らの名誉又は信用を違法に毀損し、また、被告国会タイムズは、その代表者である被告五十嵐が行った右行為について責に任ずべきであるから、右被告両名は、原告らの被った損害について連帯して不法行為責任を負う。

また、被告遠矢は、本件内外タイムス各記事を掲載して発行し、もって原告らの名誉又は信用を違法に毀損し、被告内外タイムスは、その代表者である被告遠矢が行った右行為について責に任ずべきであるから、右被告両名は、原告らの被った損害について連帯して不法行為責任を負う。

ただし、被告内外タイムスについては、前記争いのない事実及び弁論の全趣旨によれば、右不法行為の日である平成五年二月一〇日の後に和議開始決定がなされ、平成六年一二月二〇日、和議認可決定が確定しているから、原告らの被告内外タイムスに対する債権は和議債権に該当する。

(二) 原告らは、本件各記事が掲載されたころ、他の雑誌等に、同様の内容の記事が掲載されたことをもって、これら全てが共同不法行為にあたると主張するが、これらの各報道は別個の発行人がそれぞれ別の媒体に記事を掲載して行ったものである以上、これらについて行為の共同性を認めることはできないから、原告らの右主張は採用の限りではない。

2  逸失利益

原告会社は、本件各記事の掲載によって、融資元である後楽園ファイナンスから融資の減額をされたとして、その貸付利息相当額の損害を被ったと主張する。

確かに、甲第二一、第三二及び第三三号証によれば、原告会社では、平成五年一月末から二月上旬ころ、後楽園ファイナンスから融資の減額を要請され、最終的に同年二月二〇日ころ、六億一〇〇〇万円の減額が決定したことが認められる。

そして、甲第三二号証には、右減額が、被告らを含む媒体に原告らに関する記事が掲載されたためであるとする部分がある。しかし、まず、前記のとおり、本件各記事に先行して、週刊フライデーに原告X2に関する記事が掲載されたこと、後楽園ファイナンスからの減額要請が本件各記事の掲載前である平成五年一月中にあった可能性があることのほか、乙第三五号証によれば、フライデーの発行部数は八四万部にのぼり、国会タイムズの発行部数二万部とは比較にならないことが認められ、また、弁論の全趣旨によれば、内外タイムスの発行部数も週刊フライデーには到底及ばないことが認められるので、これらの事情に照らせば、本件各記事の掲載と原告会社主張の損害の発生との間に直ちに因果関係があるとは認められないというべきである。

したがって、原告会社の右逸失利益についての主張は採用できない。

3  謝罪広告及び無形損害

本件各記事の掲載に先行して、週刊フライデーが原告X2の顔写真及び原告会社の事務所の写真を掲載しており、また、他の全国紙も本件に関する記事を掲載していること、国会タイムズ及び内外タイムスの発行部数が前記判示のとおりであること、本件各記事が相当扇情的な内容を含むものであること等諸般の事情を勘案すれば、本件において、原告らの主張する謝罪広告の掲載は、いずれの被告に対する関係においてもその必要性がなく、金銭賠償をもって足りるというべきではあるが、損害賠償額については、原告会社が本件国会タイムズ記事によって被った損害として一〇〇万円、本件内外タイムス各記事による損害として一〇〇万円、原告X2が本件国会タイムズ記事によって被った損害として八〇万円、本件内外タイムス各記事による損害として八〇万円がそれぞれ相当であると認める。

ただし、被告内外タイムスについては、前記和議認可決定の和議条件に従うべきものである。

第四  結論

よって、原告らの本訴請求は、主文記載の限度で理由があるからこれを認容し、その余は失当であるからこれを棄却し、訴訟費用の負担について民訴法九八条、九二条本文、九三条一項本文を、仮執行の宣言について同法一九六条一項をそれぞれ適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官相良朋紀 裁判官安浪亮介 裁判官山口倫代)

別紙(一)〜(五)<省略>

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